Home > 歯科界へのメッセージ > 医療過誤訴訟急増の背景―患者中心の医療精神と情報開示が急務<1999.5>
コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。
1999年1月の横浜市立大学付属病院「患者取り違え手術事件」は、日本の医療機関に対する国民の不安を現実のものにしました。その後も次々に報道される注射や投薬のミスに、国民は〈医療過誤は日常茶飯事に起こっている〉ことを再確認させられました。
週刊誌やテレビの特集も相次ぎ、国民の目はいっそう厳しく注がれています。「医療事故はここにきて急に増えているのではない、もともとあったミスが公表されたにすぎない。」と指摘する声も多く、今こそ「開かれた医療」への脱皮が求められています。
ここ数年医療過誤訴訟が急増しています。最高裁のまとめによると、1997年1年間の新規提訴だけで599件、この5年間に60%も増加しています。係争中を含む全訴訟数は2,553件にのぼります。しかし、本裁判にならない「示談」や「泣き寝入り」、見過ごされたミスを加えれば、医療事故の数は計り知れません。
歯科に関する最近の判例をみると、「インプラントの失敗で、治療費、慰謝料で400万円の支払い命令」(東京)、「セラミック前装鋳造冠ブリッジの補綴がたびたび脱離し、20万円の慰謝料」(京都)と、特に自由診療をめぐるトラブルが目立っています。
日本の医療をめぐる環境の大きな変化のひとつに、「国民の知る権利」を中心とする患者さんの権利意識の飛躍的な向上があげられます。
それは「薬害エイズ事件」に先鋭的にあらわれているように、医療界の専門性(一般市民は医療知識や情報に極めて乏しい)、密室性(手術室や治療室の閉鎖された中で何をされているのかわからない)、そして封建制(業・官界・同僚がかばい合って真相が容易にわからない)という大きなカベ対して、国民が怒りを顕在化させたものに他なりません。患者さんには、自分の状態を知り、治療の是非を決める権利があるのです。
訴えをおこす原告(患者)の希望はあくまでも「原状復帰」ですが、それが無理でも
を求めています。
人間である以上、誰にでもミスは起こり得ます。いちど治療を託した患者さんが裁判という手段に訴えるのは、その結果に「納得できない」からです。
納得するための前提条件はディスクロージャー(情報公開)です。まずは、不安の塊の患者さんに耳を傾けること。そして現状を説明し、治療計画を〈話し合う〉のです。リスクも含めて納得して治療に臨めば、トラブルが発生しても最善の方向を見出すことができるはずです。
医療の原点が「相互信頼」にあることを肝に銘じ、常にその原点に立ちかえりながら、日々の診療を進めてください。
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