歯科界へのメッセージ

Message to the dental world

コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

「食べて治す」ために

医療における歯科のはたす役割

●医療が変わろうとしている

「日本の医療が変わろうとしています。ものを食べるというあたりまえのことが医療現場で見直されているのです。」このフレーズで始まる1月9日夜の「NHKスペシャル」をご覧になった方も多いと思います。タイトルは「食べて治す」、副題が「患者を支える栄養サポートチーム」です。番組は、三重県尾鷲市の市立尾鷲総合病院の東口高志医師が中心となって取り組みを続けているNST(Nutrition Support Team=栄養サポートチーム)の活動を紹介しながら、治療における「栄養管理」の必要性、なかでも「口から食べること」の決定的な重要性を明らかにしました。

●栄養改善で病気回復早まる

番組は、NSTの取り組みによって患者の栄養状態が改善され、回復が促進される姿をたんねんに追いながら、その結果、院内感染の減少、入院日数の短縮、そして病院にとっては増収という大きな成果を生んでいる過程を克明に描きました。

同時にそれは現在の日本の医療の問題点を浮かび上がらせます。番組では、日本の71%の病院で患者の栄養状態の調査や必要カロリーの計算に基づく管理が行われていないという実態、そして治療のために血管からの点滴栄養を使い過ぎ、それによって患者の免疫力が衰え、病気の回復を遅らせているという問題点を指摘しています。番組では、高齢者の入院患者の40%が栄養不足状態にあると述べています。

●「口から食べる」たいせつさ

食べ物は小腸の絨毛(じゅうもう)から吸収されますが、点滴栄養を長期間続けると腸が動かないので「絨毛突起」にある免疫細胞も働きません。東口氏らのチームは、患者が自分の口で食べる(或いは消化器に直接食物を送り込む)ことによって腸の免疫細胞を活性化させ、全身の免疫力をアップさせることに力を注ぎました。同時に「口から食べること」は患者のQOL「人間らしい生活」に直結しています。お年寄りの患者さんが、管理栄養士が試作した大根の糠漬けのとろみ食を口にして「大根の味だ」と眼に光を取り戻す姿に、医療の真価をみる思いがします。「栄養管理は治療の基本、前提」と言い切る東口医師の言葉には力がこもっていました。現在NSTは日本全国で約280の病院で組織され、さらに200の病院で立ち上げの準備がすすめられているといいます。

●「噛む」こと(歯科)の位置づけ

ところで、この番組をご覧になってNSTの努力を高く評価しつつ「何か足りない」と感じられた人も少なくないと思います。そうです。口からとろみ食を食べる患者さんの無歯顎の口には入れ歯がありませんでした。加えて、チャート化されたNSTの組織図には、残念ながら歯科関係者の職種はありませんでした。摂食嚥下、口から食べるという歯科が直接関わる得意分野なのに、なぜ、歯科医師や歯科衛生士が入っていないのでしょうか。残念ながら、これが2005年1月時点の、日本の医療における歯科の位置づけと言わなければなりません。

私たちは「生きることは食べること。食べることは噛むこと」という歯科の果たす役割を広く医療界、国民のなかに訴えていかなければなりません。そして、日々の診療のなかで、一本一本の歯を守ることの大切さ、全身の健康維持とのかかわりの中で、噛むことの大切さを患者さんに訴え続け、実感していただくことが何より必要と考えます。歯科に関わるすべての人の努力が必要です。歯科の果たしている役割に誇りと自信をもって、がんばってまいりましょう。

右上のNSTの図に歯科医師・歯科衛生士の名前が並ぶ日の近いことを心から願っています。