歯科界へのメッセージ

Message to the dental world

コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

「歯科の未来」を信じて

●死んではならない

前回取り上げた東京の歯科医師の自殺をめぐって、「東京新聞」(2007年11月5日付)が「追い詰められる歯科医師たち」という記事を掲載しました。そこでは、医療官の「まるで特高」のような追及と、「指導」の厳格化の中で、2006年10月以降、都内だけで港・新宿・杉並で3人の歯科医師が自殺している実態を明らかにしています。

記事は、治療の「質」は問わず、神経を抜く治療をしたほうが収入になる「健康保険」、しかもその報酬は国際的に見ても、異常に低い日本の現状を痛烈に告発しています。

歯科は今、大きな危機に直面しています。しかし、その現実の中でも、決して死んではならないのです。「打つ手」は無限にあります。私たちは困難を突破する道として「口腔から全身」に視野を拡げた診療、「美と健康」の願いに正面から応える診療、「予防歯科」の実践という道を提案しています。それが必ず医院を変え、日本の医療を変えるからです。

●口腔から全身の健康を

2007年11月17・18日に開催された東京デンタルショーは「口腔から全身の健康を科学する」という新しい視点からのテーマが掲げられ、歯科界の転機と可能性を感じさせられました。口腔こそ全身の健康とクオリティオブライフ(QOL)のカナメ、という役割を歯科界が深く認識し、本気で向かってゆくなら、歯科の未来を輝かしいものにできるはずです。

この間、私たちは、脳血管疾患などによる摂食機能障害において、Mパタカラを使用した診療に保険が適用されたことを追い風に、歯科界に対して「今すぐ口腔から全身の健康へのアプローチを」と訴えてきました。パタカラ開発者の秋広良昭氏は、症例はもとより、保険算定のフローチャート、アセスメント文書など、すぐ実践に活かせるツールを開発して、全国各地で導入を訴えています。これまで意識の外にあったテーマだけにためらいも見受けられますが、各地の実践で驚くべき改善症例が次々に生まれています。

デンタルショーの中でも、東京・葛飾の福田徳治氏が、くも膜下出血や脳梗塞、頚椎損傷で歩行困難や寝たきりになった患者が、義歯を入れることで、劇的に改善し、起き上がり、歩けるようになった症例を発表。福田氏は義歯を入れる前に、必ずパタカラを使い、口腔周辺の筋力を鍛えるそうです。「パタカラをくわえることができれば必ず治ると思っています」との氏の言葉は、満員の会場を驚きと感動で包みました。

●医療の「王道」を進む

歯科用品の販売が全体として低迷している中で、インプラント材の売り上げが突出して伸びています。「経営向上にはインプラントが決め手」とよく耳にします。もちろん、治療技術、滅菌、咬合、メンテナンスなどの条件をクリアし、患者による「インフォームドチョイス」の治療であるならQOLの向上に寄与するでしょう。しかし、そうした高価な補綴物も「機能」しなければ意味がないのです。機能させるのは口腔を取り巻く筋肉群であり、その筋肉を動かす司令を出すのが脳の働きです。歯科は、今やその脳の働きをも活性化させる口腔領域を担っているのです。口腔筋、表情筋に視野を広げ、行動を起こしていきましょう。

日本の歯科医療の方向は、紆余曲折を経ながらも「予防」に、そして「口腔と全身の関わり」を軸に動いています。私たちはあくまでも国民の健康を守り増進させる「医療」としての歯科医療の未来に確信を持っています。目の前の患者さんの苦しみを解決し、ほんとうの願いに応える医療の原点に立って診療をすすめてゆくなら、医院経営も、歯科の未来も暗いはずはありません。希望をもって歯科医療の「王道」を進んでいきましょう。