歯科界へのメッセージ

Message to the dental world

コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

ホントの「安心」と「活力」を!
●国民の8割が「不安」のなかに
今年1月に日本医療政策機構が行った「日本の医療に関する2009世論調査」によると「必要な時に良い治療が受けられない」ことに不安を感じている人が79.8%、8割に達することがわかりました。さらに「深刻な病気にかかった時に医療費を払えないのではないか」という不安が86.2%、「医療ミスにあうのではないか」が82.5%と、国民の大多数が医師不足や医療費、医療内容に「不安」を抱いています。

一方、麻生首相が設置した「安心社会実現会議」は8月15日「安心と活力の日本へ」と題する提言を発表しました。「安心」の回復は急務、掲げられた項目 (1)雇用 (2)子育て (3)教育 (4)医療 (5)老後 のどれをとっても早急に対策をとるべき課題です。

その中の「4.医療と健康の安心」をみると、地域の医療ニーズに応える医療体制とともに、国民の命と基本的人権(患者の自己決定権・最善の医療を受ける権利)を実現するため、2年をめどに「基本法」を制定すると書かれてあり、注目しました。それが実現するなら画期的なことです。それは、「患者の権利章典」(アメリカ病院協会・1973年)、「患者の権利に関するリスボン宣言」(世界医師会・1981年)等で確認された諸権利をベースに、患者中心の内容になるものと思われます。

●歯科医師の「不安」解消も急務
医療者側も「不安」です。「お恥ずかしい限りですが、一昨年の年収は377万円、昨年は…445万円です」と語る仙台市38歳の歯科医師を紹介する5月31日付「東京新聞」。記事のテーマは「歯科保険医療危機の現実」、「患者思い…年収445万円」「高額自由診療の誘惑」の見出しが並びます。

患者数は1日30人、しかし「保険医療にこだわり患者さんの利益だけを考える」良心的診療では、子どもを保育園に預け、妻が市役所で働いてやっと、という状態です。今の保険制度では、むし歯の神経を残す治療が1200円、抜髄すれば5700円、ならば歯科医師は最初から神経を抜いてしまおうと考えがち、と記事は指摘します。そして、このまま保険医療が崩れていくと、やがては自費治療ができない人は歯科治療を受けられなくなるのではないか。保険医が不足しているイギリスでは「歯科治療修理キット」が売られ、自ら「ペンチで抜歯する」患者がいる。同紙は「保険歯科医療崩壊前夜」と警鐘を鳴らしています。

昨年発表された「医療経済実態調査」によると、歯科医院の「収支差額」(医業収入-医業支出)の最多層は、なんと「50万円以上100万円未満」の層で全体の25%。この4人に1人を占める「ワーキングプア」を生んでいる歯科界「不安の構造」の解消が急務です。

●「安心」「活力」回復に歯科の力
医療費などの社会保障費を年2200億円削減する政府の「骨太方針」をめぐって、総選挙を前に与党内でも異論が出ていますが、国の政策、社会保障費を削減し患者・国民負担を増やすという従来の方針は変わりません。

しかし、国民の健康を守り増進させながら、医療費を軽減させる道はあるのです。しかも、歯科がそのカギを握っているのです。山梨県歯科医師会の「高齢者における歯の健康と医療費に関する実態報告書」(2008年度)には、「残存歯が多いほど低医療費」という結果がくっきりとあらわれています。残存歯20本以上の人の月平均医療費が17,583円であるのに対し、残存歯0~4本の人は24,976円。実に3割、7千円以上も低い。また脳梗塞の患者で20本以上とそれ以下の人を比較すると20本以上の人は1万3千円以上も医療費が低いことがわかりました。極論すれば2200億どころか、医療費を3割、年間10兆円を削減することも夢ではない、ということです。

いまこそ、歯科が国民の健康増進と医療費削減の旗を掲げ、積極的に社会に対してアピールすべき時です。データをとり、実績を組織的に積んでゆくこととともに、個々の歯科医院の「医療の力」で患者さんの健康を増進し、医療費を軽減させてあげましょう。そんな歯科医院には患者さんが集まってきます。患者さんが集まれば医院は繁栄します。ホントの「安心」と「活力」をうむ歯科の力に誇りをもって、「不安の時代」を突破していきましょう!