歯科界へのメッセージ

Message to the dental world

コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

QOL高める「医療生活産業」

●富山に「歯みがきサロン」誕生

富山市にTeeth Ai(ティース・アイ)という「歯科衛生士さんのはみがきサロン」がある。サービス内容はオーナーの歯科衛生士・精田紀代美氏が開発した特許申請中の材料や独自のノウハウによるクリーニング・ホワイトニング・GUMケアの3本柱である(クリーニング1回15分2100円)。医薬品や医療器具は使用せず日用品だけで「歯のエステ」を行う。

精田氏は「美と健康、癒し、めざすは究極の予防。歯科のプロとして『医療』である歯科医院に橋渡しも行います」と語る。歯科衛生士の独立開業を支援する「オーラルキャリアアカデミー」も開講して、卒業生4人が開業。さらに歯科医師の開業も近いという。

「私は歯科衛生士として30年間『はみがき指導』をしてきました。でもTBIの『指導』だけでは『わからない』のです。ある人に『4回教えられたけど、その通り磨いたつもりでもダメだという。磨いてもらって初めてわかった』と言われて気づきました」と精田氏。日本では『予防のために歯科医院へ行く』のはハードルが高い。そこでプロによる「はみがきサロン」の新事業をたちあげ、全国13万人といわれる未就業の歯科衛生士に呼びかける全国展開の準備を急ピッチで進めている。

●「医療生活産業」という新概念

6月30日、経済産業省は新しい医療サービスの市場拡大の方策を検討する「医療産業研究会」の報告書を公表した。それによると、医療に対する社会的ニーズのうち、公的給付(健康保険等)の必要のない需要に対する大きな市場を創出してゆくべき、としている。

報告書はWHO(世界保健機構)が提唱する「プライマリーヘルスケア」(PHC)の理念を紹介し、日本においても健康状態の維持・改善に必要なあらゆる需要を地域レベルで統合するための手段として、疾病予防、健康増進、治療、社会復帰、地域開発活動すべてを包括するPHCが求められている、とする。病気にならない「疾病予防」をはじめ、病気と上手に付き合う「疾病監理」、リハビリを徹底して医療、介護の世話にならない「介護予防」、看取りにおける「家族支援」など、現在の「医療」制度、診療報酬のメニューに含まれない、QOL(生活の質)の維持・向上を目的とするサービスを「産業化」しようという提言である。

それは「医療」でもない「介護」でもない「第三の分野」の医療の「周辺サービス」であり、報告書ではそれを従来の「健康サービス産業」プラスアルファの「医療生活産業」という新しい概念で表現している。「はみがきサロン」Teeth Ai は、まさにこの「第三の分野」の先駆けとなるビジネスモデルである。

●QOLを高めるチャレンジ

 もちろんこれには賛否両論があるかもしれない。「はみがきサロン」は「医療」の範疇ではないが審美歯科にとっては新しいライバルの出現となり、現役の歯科衛生士がサロン開業に流れてゆくとすれば、慢性的衛生士不足がさらに深刻化するとの見方もある。

 しかし、精田氏が語るように、歯科のプロフェッショナルとして地域の生活者の予防と口腔のセルフケアの意識を高め、医療=歯科医院への橋渡しをすることは歯科医療の幅と奥行きを拡大することにつながることは間違いない。しかも多くの未就業の歯科衛生士の「潜在力」を引き出すことは、歯科医療界への復帰の可能性にも道を拓くだろう。歯科の専門性を、国民のQOLを維持し高める仕事に生かす道をつくることは、大きな社会貢献につながる。

日本の疾病構造の変化、年齢構成など社会構造の急激な変化のなかで、「医療生活産業」が「医療」との相互発展を図りながら今後どのような展開を示してゆくのか、期待をこめて見守りたい。