Home > 歯科界へのメッセージ > ひとりはみんなのために<2011.6>
コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。
ひとりはみんなのために
●被災地の惨状目の当りに
東日本大震災から50日たった5月はじめ、地震と津波の被災地岩手の釜石を訪問した。800人が犠牲となり、いまだ500人が行方不明になっている。被災した市の中心街では、自衛隊が重機で瓦礫の撤去を続け、長野や神奈川県警の車両が行き交っていた。津波に潰され、海底の真っ黒い泥に覆われた街は少しずつ元の姿を取り戻しているが、人影はない。これからどのような復興計画が立てられてゆくのか、街の再生にはこれから長い苦難の日々が続くだろう。
釜石市大町、港のすぐ近くのおいかわ歯科・及川陽次院長(48)を訪ねた。彼は、津波に水没して、全壊した診療所に溜った瓦礫や泥と格闘しながら「必ず医院を再開しますよ! 」と意気軒昴だ。
●復興のシンボル「北の鉄人」
5月15日五月晴れの盛岡市のグラウンドに、何本もの大漁旗が舞った。釜石を本拠地とするラグビーチーム「釜石シーウェイブス」(SW)が震災後初の対外試合で関東学院大学に59-17で大勝したのだ。釜石から駆けつけた応援団が、真っ赤なジャージの選手たちに向かって振る大漁旗と「カーマイシ!」の声援には、特別な思いがこめられている。
SWの前身は、日本選手権で1979年から7年連続日本一に輝き、「北の鉄人」と呼ばれた新日鉄釜石である。選手の多くが地元東北の出身で、製鉄所に勤務しながら厳しい練習を重ねて「無敵の釜石」となった。クラブチームとなった現在も、選手の半数が新日鉄釜石所属である。釜石の人々にとって、ラグビーは魂のスポーツであり、復興のシンボルなのだ。
●One for all の精神胸に
おいかわ歯科の泥だらけの待合室にも、釜石シーウェイブス応援団のミニ大漁旗が残っていた。旗は、3波にわたって寄せては引き、院内をめちゃめちゃに破壊した津波の泥に汚されながらも、壁にしっかりと張り付いていた。
ラグビーの精神は、One for all, All for one.「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」。SWの選手たちも、震災後、自らも被災しながら、直ちに施設や高齢者の許に走り、率先して力仕事を担い「たのもしい助人」と喜ばれた。
及川氏も、津波で全てを失って避難所暮らしをしながら、同じく被災した歯科衛生士や保健師とともに避難所を回って口腔ケアに力を尽くした。もうすぐ取り壊される医院の壁には、黒いマジックで「がんばろう! 釜石」の合言葉、そして、「また、ここで必ず診療を再開します!!」と決意が表明されている。「私を必要とする患者さんがいる限り、ここでがんばります」、それが及川院長の変わらぬ思いである。
●「口腔」から地域を元気に!
被災地では、高齢者の肺炎が急増している。4月に開かれた「日本呼吸器学会」、「日本口腔科学会」の緊急シンポジウムでは、被災地における「震災関連死」の実態と、医科・歯科を含め様々な分野の協力の必要性が訴えられた。肺炎対策においては、衛生、栄養、運動、睡眠など、「全身の健康」を守るケアや支援とともに、口腔ケアによる感染予防に大きな期待がよせられている。
地域の復興は地域の人々が元気にならなければ実現できない。「感染を予防」し、「食べて元気」になっていただく。人々の「元気のカギ」は「口腔」が握っているのだ。それが今、かつてなく歯科の役割に対する関心が高まっている所以である。
もちろん「地域医療」は被災地に限らない。全国どこでも、「ひとりはみんなのために」元気と希望を与える歯科医療に邁進することが、最大の支援のひとつなのである。
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