Home > 歯科界へのメッセージ > さあ、ここから始めよう<2011.10>
コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。
さあ、ここから始めよう
「歯科口腔保健法」が拓く未来
●歯科の「基本法」ができた!
8月2日、衆議院は全会一致で「歯科口腔保健の推進に関する法律」(通称「歯科口腔保健法」)を可決した。「歯科界の悲願」といわれてきた「歯科の基本法」が成立したのだ。日本は大震災復興の途上にあり、放射能への恐怖、日本経済の先行き不安など、人心は穏やかではない。この法案成立にそれほど関心が寄せられなかったのは残念である。
2年前の本誌175号の本欄で、筆者は、政権交代で鳩山内閣が誕生し「歯科基本法」は遠からず実現すると考え「『歯科基本法』への期待」という一文を著した。民主党には明確に「歯科で日本を変える」と唱える議員もいて、一刻も早い誕生を心待ちにしていた。ところが、政権を奪取した民主党は内政、外交、震災対策すべてに出遅れ、のち迷走状態で「自民党はごめんだが民主党も情けない」と国民の政治に対する不信感を一気に増幅させている。
そのなかでの「歯科口腔保健法」の成立(それも全会一致で)には、暗闇の中から一筋の光が差し込んでくる思いがした。
●「QOL」と「予防」を柱に
法律の内容で筆者が最も重要と考えるのは「歯科の役割」。口腔衛生・保健に努めることが、単なる(狭い)口腔内の健康にとどまらず、全身の健康やクオリティオブライフ(QOL)を高める基礎である、という基本原則に立脚しているかどうかである。
第1条の「目的」で「この法律は、口腔の健康が国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしている」と述べ、続けて「国民の日常生活における歯科疾患の予防に向けた取組が口腔の健康に極めて有効」と、予防の大切さを基本理念に掲げている。この、QOLと予防を柱にすることにまったく異論はない。
さて、その理念を実現するためにどうするか、第2条では、(1)生涯にわたる予防と早期発見・早期治療、(2)乳幼児期から高齢期までの機能と状態に応じた口腔保健、(3)保健・医療・福祉・労働・教育との連携協力、これらを歯科口腔保健推進の基本と位置づけ、具体的な国や地方公共団体、歯科医師、国民の「責務」へと続く。
●「正しい知識」と「定期健診」
「国民の責務」とはなんだろう?「国民は、歯科口腔保健に関する正しい知識を持ち、生涯にわたって日常生活において自ら歯科疾患の予防に向けた取組を行うとともに、定期的に歯科に係る検診を受け、及び必要に応じて歯科保健指導を受けることにより、歯科口腔保健に努める…」(第6条)と自ら努力する責任が明記されている。
「正しい知識」は誰が教え、日常生活での予防の取組みは誰が指導するのか。保健所や学校の公衆衛生でもある程度はカバーできるだろう。しかし一般論ではない医学的な知識はプロフェッショナルが伝えなければならないし、定期健診、歯科保健指導は、歯科医師・歯科衛生士の仕事である。歯科医院の役割は、来院患者のむし歯や歯周病の治療を行う前に、まずは医院の中でも外でも、1本の歯の大切さを伝え、咬み合わせの機能と噛むことの効能を知ってもらい、予防のために何をどのように食べ、ハミガキし、定期チェックとメンテナンスを受ける大切さを理解してもらうことなのである。
●「口腔から全身へ」の出発点
「歯科口腔保健法」は、「疾病対策」ではなく文字通り「保健」、QOLの向上を目的としている。そのために、歯科に求められるものは何か。まず第一に必要なのは、コミュニケーション力である。そして、歯科と医療(医科)や福祉、教育などとの連携、協力にチャレンジすること。歯科にとって全身疾患や医学的知識に精通するための努力が求められる。「口腔から全身へ」視野を広げること、それがいっそう「歯科の役割」と力を引き出すことにつながる。
法律がひとつできたからといって、歯科界はそう簡単には変わらないという見方もある。しかし、同様の歯科保健法は、すでに20の道県、7つの市と町で「条例」として採択されている。国が本腰を入れて、そして何よりも最前線の歯科界が本気になって向かってゆくなら、日本を根本から健康にする歯科医療を創造できると確信している。
ここがスタートラインである。できること、やれることはたくさんある。未来を見据えて、いまここから始めよう。ゴールは「みんなが元気に生きる社会」である。
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