Home > 歯科界へのメッセージ > 口腔から日本を元気に<2013.06>
コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。
口腔から日本を元気に
●人類史上未経験の高齢社会
前回紹介した、21世紀の歯科医学を考える国際歯科シンポジウムのなかで、社会保険診療報酬支払基金の歯科専門役鳥山佳則氏は「日本の歯科保健医療の動向」と題して行政の立場から歯科の課題と展望について講演しました。これまで歯科は健康な患者を治療対象として「健康でない患者」を特別な患者とみなしてきた。しかし世界に先駆けて高齢化が進む日本社会においては、「特別な患者」のほうが多くなる。それに対して現在の歯科医学は有用か?まったく異なるものになるのか?と問いかけ、高齢患者の(1)歯の喪失、(2)口腔環境の変化、(3)全身疾患と副作用、(4)運動機能の低下に対応する歯科医療が、日本に続いて高齢化を迎える他の国々のモデルとなれるようにと訴えました。
●疾病対策を超える保健戦略を
日本は2050年には国連の推計で35%、 「国立社会保障・人口問題研究所(社人研)」推計では38.8%という世界最高の高齢社会を迎えます(21%の米国の2倍近い割合)。その前に、高齢者が3500万人を超え「団塊の世代」が75歳以上になる「2025年問題」に直面します。人類史上未体験の長寿社会における歯科医療の内容と体制の構築が求められています。そのために、鳥山氏が提起する4つのテーマの考え方を根本から変えて、(1)歯を守る、(2)口腔環境の改善、(3)全身疾患予防、(4)ADL向上、という予防型で攻勢的に高齢化を迎え撃つ体制の構築こそが求められます。言い換えれば私たち自身が「最期まで、自分で食べて歩く元気なお年寄り」になってゆく保健戦略をたてることが一番の課題です。
●「POIC研究会」NPO旗揚げ
4月下旬、東京でPOIC(Professional Oral Infection Control:専門的口腔感染症予防)研究会のNPO設立記念講演会が開かれました。急激な高齢化が進む日本の医療のあり方を根本から変えていこうという志を掲げ、地道に口腔領域の専門性を極めるとともに、医科・歯科・介護・福祉など、保健関連の多職種と連携しながら「健康増進」をめざす組織の旗揚げは日本の医療全体にとって画期的な意義を持つものです。また同研究会が「安全・安心な医療」をめざして、ユニット内の細菌数を「0」にするという認定施設基準を設定したのも、感染対策や治療環境に対する基本的な考え方を示すものとして心から歓迎したいと思います。
●「生きる意欲」引き出す歯科医療
POIC研究会の米山武義理事長(静岡・米山歯科クリニック院長)は講演のなかで、要医療、要介護の高齢者の急増と本格的な在宅医療時代に向かって、口腔をつうじて感染症を予防し生きる意欲を引き出す歯科医療、口腔医療の果たす役割の重要性を強調しました。そして「夜明け前の歯科医療」として、歯科医療とは、(1)生命を守る歯科医療 (2)生命を支援する歯科医療 (3)生きる意欲を引き出す歯科医療 (4)ターミナルケアを担う歯科医療であると定義しました。それは、今年3月号の本欄「歯科の仕事は何か」でまとめた4つの仕事((1)命を守る (2)歯を守る (3)健康づくり (4)希望を育む)に重なります。ターミナルケアを担う歯科の役割は「最期の時まで人間の尊厳を守り抜く仕事」にほかなりません。
「我々の役割は口腔を通して日本と日本人を元気にすることです」。米山氏のことばです。歯科の役割を健康と医療全体の中に位置づけたPOICの活動は今後さらに注目され期待されるでしょう。今こそ、歯科の誇りと希望を胸に、ともに超高齢社会の大海原にSail on!していきましょう。
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