歯科界へのメッセージ

Message to the dental world

コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

できること やるべきこと

日本の医療大転換の年

今年の春、日本の医療が「病院から地域へ」と大きく舵を切りました。その変化を、4月下旬千葉で開かれた第13回日本口腔ケア学会で強く印象づけられました。

大会長は包括的地域医療に歯科を位置づけることに粉骨砕身の尽力をされた千葉大学大学院の丹沢秀樹教授。医科・歯科ダブルライセンスを持つ丹沢氏は、大会長講演「口腔ケアの裾野を広げる:医療機関から在宅介護へ」のなかで、千葉大病院・旭中央病院・信州大病院・大阪警察病院の4病院で実践した、専門的口腔ケアを行うことで患者の入院日数が減少するとともに医療費も削減できるという「歯科の力」を証明する貴重なデータを発表しました。

学会には、超高齢時代を真正面から捉え、健康回復と医療費削減という社会的要請に応えるために「歯科ができること」、持てる力を発揮して、医科歯科の垣根を取り払い多職種連携の「オールジャパン」で地域医療に向っていこうという強い決意がみなぎっていました。

医科歯科多職種の連携

寝たきりだった人が噛める義歯や口腔ケア・リハビリによって食べられるようになり、立ち上がったり歩いたり、普通の生活を取り戻している姿がマスコミで紹介され反響を呼んでいます。口腔ケアとともに「食支援」も「歯科ができること」の大きな柱です。

5月の第64回口腔衛生学会では岩手・国保衣川歯科診療所の佐々木勝忠前所長が「医科歯科連携―歯科医師の立場から―他職種に広がる歯科の重要性」と題する特別講演を行いました。

佐々木氏は、日本歯科医師会のHPにも登場している、90歳の車椅子の男性が歯科治療を受けて口から食べて元気になり、体力がついて畑仕事ができるまでADLが回復した症例を紹介。また、歯科医師会と県立病院が連携し県内13の地域歯科医師会のうち10組織で病院NSTへの連携が実現するなど、医科歯科連携で口から食べて元気にする「経口摂取」の取り組みの感動的な記録を発表しました。10年間地道に活動を積み重ね、確実に「医の壁」をこえて患者さんに向き合うPOS(Problem Oriented System)時代の幕を開いたのです。

超高齢時代は「歯科の時代」

6月中旬に開かれた第34回顎咬合学会。「新・咬合学が創る健口長寿」をテーマに超高齢時代や包括医療をテーマにした講演が多く開かれました。なかでも国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授による「胃ろうからすべて経口摂取へ」というとことん通常食を追求する講演は大きな注目を集めました。日本大学の植田耕一郎教授は、「高齢期の摂食嚥下リハビリテーション」のなかで、治療的・代償的・環境的・心理的それぞれの側面からの歯科の役割を訴えました。

歯科界には「通院できなくなった人」「有病者」「寝たきり」「人生の最期」といったこれまでほとんど対応してこなかった人々に向き合うことが求められ、その活躍が期待されています。歯科が関わること、即ち口腔ケアや口腔リハビリによって食べることが可能になり「奇跡の回復」や「生命力が蘇る」事実が次々に起こっているからです。超高齢時代こそ「歯科の時代」と言っても過言ではありません。

活躍する場は山ほどある

最後に前述した佐々木氏の思いを紹介します。氏は、歯科の役割が評価され、医療・介護保険制度の改訂で歯科への大幅な加算が行われているのに、地元の特養で「経口維持加算」を算定しているのは3割にも満たず、入所者も全体の1割にすぎない実態を明らかにしました。そして「それは日本全国同じような状況ではないかと思う」と語り、歯科が診療室の中にとどまり、なかなか地域に出ていない現状を指摘しました。講演は「歯科には活躍する場面は山ほどある。もっと頑張らなければ!」という熱い思いに満ちていました。

いま「歯科がやるべきこと」は、まずは一歩動きだすことです。来院できなくなった患者さんのもとに足を運びましょう。かかりつけの患者さんは心待ちにしているはずです。そして通常の診療では「しっかり食べられる口腔」づくりに力を注いで「寝たきりを作らない」診療をめざしていきましょう。