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第23回日本顎咬合学会学術大会 歯科開業学セミナー 『いきたくなる歯科医院』の条件 ~16000人患者意識調査にみる「選ばれる歯科医院」像~3 コムネット代表取締役 菊池恩恵
8割が「カルテ開示」を望む
国民・患者さんは、情報をもっと開示してほしい、情報がほしいと思っているのです。けれども、現在の「医療法」では医療機関が広告できる内容には制限が加えられています。この広告規制をどう思うかという問いに対して、前回は40%の人がそれでもやっぱり医療機関が行う「広告」内容にはある程度規制は必要ではないかと考え、今年はそれが約半分49%まで増えています。
カルテ開示についても聞いてみました(図1)。「見せてほしい」前回が71.8%です。それが今年は78.6%まで増えています。医療機関としての広告の規制は求めつつも、自分の体の状態にかかわる情報は知りたいと思う。これは自然な反応と思われます。
第三者による評価への期待
第三者機関による歯科医院の客観的な評価についてはどうか(図2)。前回は約7割の人がそういう機関が「あるといいと思う」と答えています。今年はさらに増えて約8割の人が「あるといい」。医科では以前から中立の機関による評価が行われていましたが、歯科でも3月からIDI(NPOの歯科医療情報推進機構)が活動を開始しています。日本歯科医師会は認めない「不適切」といっていますが、私たちはこのような、たとえNPOの機関であっても「はじめの一歩」として行動し、旗揚げしたことを高く評価していますし、患者さんへの情報提供にとっては大きな前進だと思っています。
他の医院での評価というセカンドオピニオン制についてはどうでしょうか(図3)。「実施されることを望む」これが半数の49.9%です。しかし「セカンドオピニオン」といわれても意味がわからないよという人も4割近くいたこともわかります。今年に入ると、実施してほしいという人が7割まで増え、「わからない」が2割と大幅に減っています。この制度が急速に認知されてきているとともに、現在受けている診断や治療にかなり不安を抱いていることもあらわしていると思います。
歯科医院での「良かった」体験
次に、あなたがこれまでに歯医者さんに行って「良かった」という体験がありましたらできるだけ具体的にお書きくださいと問いかけました(図4)。回答は、5年前が「ある」という人が40%です。「ない」という人が44.9%、今年は「ない」人は5年前とほとんど変わりませんでしたが、「ある」という人が10ポイント以上減っているのが気になります。
それではどんなことが良かったのでしょうか。具体的なコメントで紹介します。
「その医院は患者を安心させるためにイヤホンで有線を聞かせながら治療します。だから歯医者独特の音が聞こえなくて安心でした」
「治療に対していくつかの選択肢とそれぞれの費用対効果をちくいち説明してくれた」
「子どもに無理強いしないでまず最初は歯医者は怖くないところだということを納得させ、その次から治療に入ってくれた。おかげで子どもは歯医者が大好きでしょっちゅう行きたがるくらいになりとても感謝しています」
「少し不安な歯があって相談したところ神経や疲労でも症状がでることがあるのであわてて治療せず少し様子を見たほうがいいといわれた。しばらくすると本当に落ち着いてきた。やたら治療されて歯を傷めず本当によかった」
「親切に歯ブラシ指導をしてくれた」
「雨の中ぬれて病院に入ったときも嫌な顔をせず、すぐタオルをもって受付の人が出迎えてくれたことです」
「ある歯科医院で治療が終わって時期を経て違う歯医者さんへ行ったときに前回の治療をとても丁寧だと言われた」
と、こういうことが非常によかったと感じられるわけです。現在の歯科医療サービスの中心をなしているものはもちろん治療技術ですが、その良し悪し以上に、患者さんにとってはこういう優しい対応をしてもらった、話を聞いてもらえたということが非常に良かったと感じていることがよくわかります。
ですから、もちろん核となる診療の診断・治療技術に裏打ちされた優しさであってほしいと思いますけれども、こんなふうに、患者さんを人として大切にするということが基本であり、とても喜ばれていることがわかります。つまり、思いやりのある対応、それから説明、むやみに治療しないという内容になると思います。
患者にとって「良い歯科医院」とは?
さて、ではあなたにとってよい歯医者さんとはどういう歯科医院ですかと聞いてみました(図5)。
「治療技術が優れている」「よく説明してくれる」「人柄がよい」「清潔である」「治療が早い」「治療費が安い」「スタッフが親切」「待たせない」「できるだけ抜かない」「予防に熱心」というふうに続いております。
その傾向はだいたい前回も今年も同じでした。患者にとっては治療技術というのは、その時点では実はほとんどわからない。けれども、自分にとってよい歯医者さんというのはやっぱり治療をきっちりしてくれる先生であり歯科医院なのだということ、そうであってほしいと期待しているということがよくわかります。
だからこそ、よく説明しなければいけないのです。患者さんとドクターには知識にも意識においても大きなギャップがあるからです。なんのためにこんなに時間をかけているのか、なぜ抜かないのか、なぜ削らないのか、根管治療にどうしてこんなに何回も長い期間通わなくてはいけないのか、ということがまだまだわかっていないのです。わかればそれは信頼に必ずつながっていきます。
不満に思っていることは何か
次に歯科医院への不満を聞いてみました。たくさんの選択項目から選んでもらいました(図6)。
「ふだん歯科医院で不満に思っていること、直してほしいことはどんなことですか?」の問いに対して、多いところで、「痛いこと」「待たせること」「治療費が高いこと」「説明が足りないこと」「怖い」そういうところが大きな山になっています。
「痛い」「待たせる」「治療費が高い」が不満のトップスリー。そう感じるのは私たちも同じです。予約制なのになぜ30分も1時間も待たされるのかと。しかしそれも説明があれば、そして納得できれば人は待てるんです。「なぜか」「いつまで待つのか」と。待たされていることが不満なのは、それが納得できない、わからないからだと思います。ですからこういう「不満」をどうすれば「安心」に変えてゆくことができるのか、手間と言葉を惜しまずにどんどん説明してほしいと思います。
患者さんの「正直な気持ち」
実は、こういう不満は、先生方が直接患者さんに聞いてもおそらく正直には出てこないと思います。先月、日本歯科医学会が29の大学病院を中心に民間の診療所も含めて患者さんの意識調査をやりました。そこではほとんど8割方「説明に納得している」「わかりやすい」という、非常に好意的な患者さんの答えであったという調査結果が発表されていました。しかし、私たちから見ると、病院や先生から「どうでしたか」と聞かれてそう簡単に「悪かったです」といえないのが患者の心理だと思います。 ですから、今回私たちに寄せられた声や数字が本当に患者さんの意識を反映している、正直な答えに近いのではないかと考えています。ですから、この何を不満に感じているのか、というポイントをこの機会にぜひお考えいただきたい、「感じとって」いただきたいと思います。
予防意識の向上
それから今回の学会に向けて、特に予防についても質問してみました。
まず8020運動について(図7)。約半分くらいの人は知っていると応えています。でも、やっと半分くらいなんですね、まだまだ。
PMTCを知っていますか(図8)。ほとんどいません。3.5%です。「はい」と答えた人に実際に受けたことがありますかという人は3.5%の中の人の8割の人は受けているから知っているということになります。
予防歯科についてその有料でも予防処置を受けたいと思いますか、と。「受けたいと思う」。3分の2の人がイエスと答えています。予防への意識がここまで高まっていると受け止めていただければと思います。健康保険制度はまだまだ追いついていませんが、現場の歯科医院では、それに真正面から向かっていただきたい。
必要なのは、患者さんの意識の高揚に遅れをとらない医院の側の準備、体制づくりとともに、健康な一般市民にむけた情報提供であり、積極的なアプローチです。
患者さんが望む歯科医院像
さて、まとめてみたいと思います。患者さんが望む歯科医院像というのは、どのような医院でしょうか。
患者さんが良かった体験をしているのは「親切にしてもらった」「説明してくれた」「丁寧に治療してもらった」「痛くなかった」「治療が早かった」「予防指導してくれた」という歯科医院です。
逆に「待たされた」「痛かった」「説明が足りなかった」「治療費が高かった」「こわかった」「スタッフのマナーが悪かった」医院は嫌な歯科医院です。
患者さんが望む良い歯科医院とはどういう歯科医院か。「技術が優れている歯科医院」がいいな、「よく説明してくれる医院」がいいな、そして「優しい人たちがいる歯科医院」がいいな、「清潔な歯科医院」がいいな、「治療が早い医院」がいいなと、これが患者さんが望む「行きたくなる歯科医院」のベスト5の条件なのです。そんな歯科医院づくりを、ぜひ医院のみなさんが一丸となってすすめていただきたいと思います。