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2021.11.02

第23回日本顎咬合学会学術大会 歯科開業学セミナー 『行きたくなる歯科医院』の条件–最終回 ~16000人患者意識調査にみる「選ばれる歯科医院」像~ コムネット代表取締役 菊池恩恵

歯科開業学セミナー 『行きたくなる歯科医院』の条件 「価値組」オンリーワン医院に!

「一生のお付き合い」を目標に 大阪・吉村歯科

 最後に、大阪市で開業20年の吉村歯科医院をご紹介します。この医院は、「全ての患者さまの幸せのために」というテーマをかかげて、スタッフが一丸となって理念を築いてきたところが特長です。
 開業は1984年、院長の吉村禎浩先生は49歳です。ユニット7台、ドクター5人、歯科衛生士9人、そして技工士、アシスタント、専任の受付の方もいて、一日80人の患者さんが来院しています。
 ロケーションは、大阪市淀川区の十三という、大阪の代表的な下町です。下町の風情いっぱいのところに、この吉村歯科医院があります。往診車を使って、訪問診療もおこなっています。
 吉村歯科医院に入ってまず感じる最大の特徴は、何と言っても、先生やスタッフのみなさんの明るさにあります。「あれ、吉本かな?」という感じのする皆さんで、スタッフ同士が非常に仲がいいのはもちろんですが、患者さんとも大の仲良しです。ある患者さんは、「ここに来るのがわしの癒しなんやな」と話していました。
 診療方針は「患者さん本位の治療」、たとえホープレスの歯であっても、吉村先生は、患者さんが「まだ噛める」と言ううちは絶対に抜かない。そして「やっぱり先生、もうだめだ」と言ったら「そうですね、しょうがないですね」と言って抜く。とにかく患者さんの考え方や意向を大事にするということに最大の眼目を置いています。
 そして徹底した説明。専用のカウンセリングルームがあって、そこでドクターやスタッフが一生懸命説明しています。「定刻5分前」をモットーに、にぎやかなスタッフミーティングが毎日行われています。非常ににぎやかです。「まるですずめの学校」のようです、と先生もおっしゃっています。

「患者」ではなく「クライアント」

 さて、吉村歯科医院では、特筆すべき行事を開催しました。それは、ホテルの宴会場を借りて行われた「吉村歯科医院開院20周年クライアントのつどい」です。2004年の10月に行われました。招待されたのは吉村歯科の患者さんたちです。大切なのは、この「クライアント」という考え方です。「患者」ではなく「クライアント」、すなわちここに集まられたクライアントの方々は、治療を終えて、継続管理をやられている、メンテナンスの成功者の方々だったのです。これからの歯科医療のターゲットは、むし歯や歯周病から解放された健康な方々であるという、医院経営の方針が明確に読み取れます。
 その方々だけで100人以上。スタッフも一生懸命出し物を披露して、それからプロのミュージシャンの患者さんが「お口のパートナー歯医者さん」という歌を創って応援にかけつけました。歯科にまつわるクイズもやって、とても楽しく感動的な集いでした。
 帰る時には参加者のみなさんが「これからもどうぞよろしくお願いします」、「一生のお付き合いをよろしくお願いします」と口々に声をかけて帰っていかれました。

コミュニケーション&「美と健康」

 以上4つの歯科医院の紹介をさせていただきました。(ここで、講演会場に参加されていた前田、吉村両先生を紹介しました。)まとめてみたいと思います。患者さんが「行きたくなる歯科医院」はどんな医院でしょうか。
 まず第一にあげられるのが、医院が清潔だということです。オフィス街か下町にあるかどうか、あるいは医院が新しいか古いか、それは関係なく、医療機関としてとにかく徹底して清潔でなければならないということです。第二にスタッフはみんな明るくフレンドリーだということ。そして「よく喋っていること」です。患者さんに説明を徹底している。仲間内のコミュニケーションも非常に活発でした。
 診療内容としては、紹介したどの医院も予防・継続管理を一生懸命やられています。勉強も一生懸命やる。対応能力、審美、口臭、いびき、といった多様な患者さんの要求、歯科に対する美と健康の「ニーズ」から「ウォンツ」へと、期待や願いが広がっています。それに対応できる、患者さんのQOLを高める力量を、みなさん非常にがんばってつけておられるということです。

スタッフの力をひきだす

 組織運営も非常にすぐれています。4医院に共通する最も大切なことは、「明確なビジョンを持っている」ということです。とりわけ患者さん中心の考え方で自院の特徴、強みをアピールしていることです。「苫小牧をむし歯ゼロの町にしたい」、「患者満足度を徹底追求して選ばれる歯科医院になる」、「健軍で一番、熊本で一番の歯科医院になる」、あるいは「健康志向の歯科医院を作る、一生のお付き合いをする」という明確な目標をもってがんばっているということです。
 ふたつめには「スタッフの力を最大限に引きだす努力をしている」ということです。勉強会、ミーティング、ユニフォームの選び方、旅行、飲み会、風通しのよい関係、意見の言える雰囲気、そして意見を言ったら解決するシステム作りを一生懸命考えています。それによってスタッフが自分の医院に自信を持ち、仕事に誇りをもって仕事にあたっている。その結果患者さんにも優しく気持ちよく丁寧に接することができるのです。
 日産のカルロス・ゴーンが、「経営者がやるべきもっとも重要なことは従業員のやる気を起こさせることだ」と書いていますが、まさしくトップのこの院長先生たちの努力にも同様のすばらしいものがあり、スタッフに対する接し方にも学ぶところが非常に大きいと思います。

「行きたくなる歯科医院」のキーワード

 以上の点をふまえて、「行きたくなる歯科医院づくり」のキーワードを並べてみます。

  1. まず患者さんの健康を守る清潔な医院を作るという熱意や技術を磨き設備を整える、そういう情熱が必要です。
  2. それから院内の団結力。ドクターとスタッフは車の両輪です。スタッフみんなの幸せを実現する医院経営をめざすことです。
  3. 3つめには徹底した情報提供、説明、データ管理が必要です。個々の患者さに合わせた対応をしていくための情報管理が不可欠です。
  4. そして戦略。自院の強みをのばし10年後20年後を展望していく。予防管理、咬合、全身との関わり、美と健康増進、癒し、ハッピーライフ。やろうと思えばいくらでもテーマは出てくると思います。こうした、補綴を超えた新しい努力が感動をうむわけです。

 歯科医院というのはむし歯を治すところという固定概念を打破する。美と健康を追求して癒しを求めてそれが期待以上のサービスになって実現される。がんばってそういうサービスを提供をして、患者さんに感動を与えていただければと思います。
 これからのライバルは歯科医院同士ではありません。今日、基調講演にトヨタの社長を選ばれたのは顎咬合学会の見識だと思います。同じ300万500万を車に代えるのか、それとも口の健康、自分の健康に投資するのか。あるいはブランド品に200万300万かけるのかと。ならば、口の健康、体の健康のほうに投資しませんかという価値観を選択する競争になってゆくと思います。
 そして、21世紀は「こころの時代」と言われています。最近NBM(ナラティブベーストメディスン)が強調されてきました。エビデンスをつみあげることはもちろん大事です。と同時に、患者さんに寄り添って患者さんとともにその人生の物語、ナラティブを作る歯科医療、それがいわゆる「価値組」ではないか。勝った負けたの「勝ち組」ではなく、人生の価値を作るオンリーワンの「価値組」になれるのではないか。それはすなわち美と健康の増進であり、笑顔を創造する仕事なのです。そこに歯科医院の未来があると、私たちは思っています。
 私たちの会社、コムネットの事務所には赤い凧を飾っています。そこには「夢」という文字が書かれています。「夢ある人には目標あり、目標ある人には計画あり、計画ある人には実行あり、実行ある人には成果あり、成果ある人には幸福あり、幸福ある人にはロマンあり、ロマンある人には夢がある」と。そして、また夢にもどり、螺旋式に高い目標に向かっていきます。みなさんが歯科の将来に夢をもち、喜びをもって患者さんとともにがんばっていかれることを心から期待し、お話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。